桜涙 ~キミとの約束~
グッと拳に力を入れる。
「運転手のおっちゃん! 救急呼んで!」
オレが頼むと、おっちゃんは何度も頷きながら「わかった」と声にし、すぐに携帯を耳にあてる。
幸い、病院の目の前だ。
うまくすれば病院から直で運んでもらえるかもしれない。
希望を胸に、オレはトラックの下に倒れている奏チャンに駆け寄って、膝をつき、名前を呼んだ。
何度も、何度も。
だけど、声はおろか、奏チャンの体はピクリとも動かない。
腰から下はトラックの下に入り込んでしまっていて見えない。
でも、見える部分の、腕も、指も、表情さえも、動くことはなくて。
代わりに、奏チャンの命を削るように、赤い血だまりが広がっていく。
「嘘だろ……ふざけんな……」
それは、オレの靴と膝を容赦なく染め上げて、オレの頭を混乱させていった。