桜涙 ~キミとの約束~
✿奇跡
病室は、日常の匂いが少ない。
手で触れるものには家庭のあたたかさはなく、目で見るものも限られていて。
窓枠に収まる景色も、季節と天候により景色を変えることはあっても、そこにあるものは変わらない。
ここにいると、何気なく過ごしていた日常の大切さに気づかされる。
見慣れた住宅街、通い慣れた道。
学校に行けば友達がいて、親友がいて。
あくびをこらえながら受ける午後の授業。
放課後の寄り道。
夕暮れ、道路に並んで伸びる三つの影。
気づかず当たり前になっていた、愛おしい毎日。
「早く……戻ろう……」
早く戻って、リクを安心させてあげたい。
ほらね、って。
リクがいてくれたから、私は元気になったんだよって。
あなたの存在があるからこそ、私は幸せだと感じることができるのだと。