もうひとつの恋
「純ちゃん!ねえ、聞いてるの?」
結衣にそう声をかけられて、ハッとした。
「あ……あぁ、ごめんごめん……
何?」
「何?じゃないでしょ?
さっきからずっとボーッとしてるよ?
なんかあったの?」
やべっ……俺、そんなにボーッとしてたのか……
「いや、何もないよ?」
テレビに視線を移しながら、とりあえずごまかすようにそう言った。
結衣は納得してないような顔で、それでもしぶしぶ引き下がる。
ダメだ……
俺、課長の奥さんのことばっかり考えてる。
一度会ったきりの、しかも上司の奥さんにこんなに心を奪われるなんて思ってもいなかった。
はぁ……と大きく溜め息をつくと、結衣がこちらをチラッと見る。
俺は何か言われる前に、キッチンでコーヒーでも淹れようと立ち上がった。