もうひとつの恋



仕事帰りに待ち合わせをすることになって、俺はくそ寒い中、ショッピングモールで20分も待たされていた。


こんなに待たされるなら、手袋を持ってくれば良かったな……


かじかむ手に、はぁ~っと息を吹き掛け温めようとするけれど、すぐに冷たくなってしまう。


肩をすくめて両手を擦りあわせながら周りを見ると、世の中はクリスマス一色に染まっていた。


12月もまだ半ばだと言うのに、どこを見てもカップルばかりで、嫌になってくる。


遅いなぁ……何やってんだろ?


イルミネーションを男一人で見たって虚しくなるだけだ。


先に中に入って携帯で連絡とればいっか……


寒くてこれ以上待ってられないと、暖かい場所を求めて歩き始める。


入り口の自動ドアを潜ろうとしたそのとき、俺を呼ぶ声が聞こえた。


「桜井ー!」


振り向くと余裕そうに歩きながら手を振って俺を呼ぶ美咲さんが目に入る。


俺はそれを見た瞬間、彼女を無視して逃げるように建物の中に入った。


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