もうひとつの恋
彼女は俺の姿を確認すると、手を上げて「桜井~」と叫びながら近づいてきた。


俺はいつもなら突っ込んでるだろうこの状況を、ぐっと我慢して控えめに手を上げて応える。


俺の態度に違和感を覚えたのか、不思議そうに俺の前の席に腰を下ろしながら、近くにいた店員を捕まえてビールを注文した。


「遅くなってごめんね?

何?何?珍しいじゃん

あんたから呑みに誘ってくるなんて」


まんざらでもなさそうな顔でそう言うと、おしぼりで手を拭きながら、メニューを広げる。


「あぁ……はぁ……

実は相談したいことがありまして……」


おずおずと歯切れの悪い口調でそう言うと、美咲さんはなんてことないような顔で俺を見る。


「さとみのこと?」


メニューを見ながらサラッとそう言われて、俺は一瞬固まってしまった。


「あれ?違うの?」


今度は顔を上げて俺の顔をじっと見ながらそう聞いてくる。

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