もうひとつの恋
「……」
「……」
シン……と静まり返る車の中、俺は運転しながらどう切り出そうか考えていた。
思った通り健太は疲れたようで、チャイルドシートに座ってぐっすり眠っている。
俺は当初の計画通り、帰りの運転を申し出て、さとみさんを助手席に座らせることに成功していた。
せっかくの憧れだったシチュエーションなのにドキドキする余裕もなく、俺は気持ちをどう伝えようか……そればかり考えている。
そのおかげで、さとみさんをほったらかしにしていたことに俺は全く気づいていなかった。
「今日は動物園に誘ってくれてありがとね?
あんなに楽しそうな健太久しぶりに見たよー!
桜井くんも疲れたでしょう?
でも楽しかったね?」
笑顔でそう言われて、俺はいつものテンションに持っていくことが出来ずに、真面目な顔で答えてしまう。
「こちらこそ……
ほんと楽しかったです
健太もさとみさんにも喜んでもらえて嬉しいですよ
おまけに弁当まで食べれたし……」
明らかにいつもとは違う俺の様子に、さとみさんが戸惑っているのがわかった。