もうひとつの恋
「……はい」


俺は申し訳なく思いながらも、覚えてないものは仕方がないとコクンと頷いた。


「昨日、一緒に呑んでたことは?」


「それは……覚えてます……」


「ガンガン呑みまくって、挙げ句のはてに、あんた寝たのよ!」


美咲さんが睨みながら声を荒げる。


寝た……?


まじか……?


「す、すみません……

そんなことになってたとは……

それで、何で美咲さんちに?」


怒られるとは思ったものの、どうしても美咲さんちで寝ていた経緯を知りたくて、恐る恐る聞いてみた。


「あたし、あんたんち知らないし……」


美咲さんがポツリとそう答える。


「えっ?」


俺は思わず間抜けな声で聞き返してしまった。


「だから!

桜井の自宅なんか私、知らないし……

仕方ないから自分ちに連れて帰ってきたのよ!」


よっぽど大変だったんだろう。


タクシーに乗せて、美咲さんちまで着いたのはいいけれど、男の俺を担いで部屋まで運んだんだとしたら……


いくらエレベーターがあるといっても、そうとう大変だったに違いない。


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