もうひとつの恋
「まさか……美咲さん……

俺のこと襲ったんじゃ……イテッ」


言い終わるか終わらないうちに、俺は美咲さんにグウで殴られていた。


「そんなわけないでしょ！

バカ桜井！」


怒鳴ってるはずなのに顔を真っ赤にしている美咲さんを見て、不謹慎にも可愛いと思ってしまう。


「そうですよね？

ハハッ、安心しました！」


冗談ぽく返事をすると、一瞬だけ美咲さんの表情が曇った気がした。


でもそれはほんとに一瞬だけで、次の瞬間にはいつもの美咲さんに戻って、俺に言い訳をする。


「あのね！

スーツが皺になるかもって思ったのと、私のベッドに汚い服で寝られたくなかったのよ！」


まあ、そうなんだろう。


だけど躊躇なく大人の男の服を脱がすことが出来る美咲さんに妙に感心してしまった。


美咲さんは言い終わると同時にクルッと向きを変えて、後ろを向いたまま俺に釘をさす。


「あんた、遅刻しても知らないからね？」


美咲さんが部屋を出ていくのを横目で見ながら、俺は慌てて時計を見た。


もうすでに８時を回ってる。


「やべっ！」


俺は急いでベッドの脇に掛けてあったワイシャツを羽織って、スーツに着替えると、美咲さんの後を追うように寝室を出た。


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表紙・目次

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