もうひとつの恋
俺は精一杯の嫌みを投げ掛けて、課長が何かを言おうとするのを遮りながらその場から離れる。


「まったく人の気も知らないで……」


一人言のように言い捨てながら、まだ自分の傷は癒えていないんだと自覚する。


あれから何ヵ月も経つのに、俺はまださとみさんへの思いを燻らせているんだろうか?


それともこんな不甲斐ない上司に負けたことが悔しいのか……


さとみさんがなぜいつまでも課長を思い続けるのか、俺には理解出来なかった。


課長が離婚したことを知ったとしたら、さとみさんはどうするんだろう?


自分の中でその答えはわかっているはずなのに、まだ踏ん切りがつかずに、いまださとみさんに課長が離婚したことを告げることができないでいる。


さとみさんが幸せでいてくれたらいいと思ってたはずなのに……


情けない自分を叱咤しながら、次に会ったときには伝えなきゃな?と、諦めにも似たため息をそっと吐き出した。


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