もうひとつの恋
「部長と課長の昇進祝いに!乾杯!」
カシャンと気持ちのいい音が響いた。
俺は喉を鳴らしながらゴクゴクとジョッキの半分くらいまでビールを飲み干して、プハァ!と息をつく。
ふと見ると課長も同じようにウーロン茶を飲み干していた。
俺はその姿に笑ってしまいそうになりながら、メニューを広げて何を食べようか選ぶ。
すると課長が申し訳なさそうな顔をして俺に言った。
「急に誘って悪かったな?」
俺は笑顔でそれをかわしながら、さっきの会話を思い出した。
「桜井、たまには飲みにいかないか?」
そう誘ってきたのは、仕事も終わり帰り支度をしている時だった。
飲めない課長が飲みに誘ってくるなんて、珍しいこともあるもんだな?
もしかしたら……何か俺に話したいことでもあるんだろうか?
まさか、さとみさんのこと?
もしそうだとしたら、俺はどう答えたらいんだろう?
複雑な思いを胸にしまいながら、俺は快く課長の誘いを受けるふりをした。