もうひとつの恋
「桜井?お前少し飲み過ぎなんじゃないか?」


課長にそう声をかけられて俺はハッとする。


少しフラフラする気もするけれど、頭は比較的しっかりしているつもりだった。


なかなか本心を出さない課長にイラつきながら、酔いに任せて一番触れたくなかったところを突いてみる。


「部長は今、一人で寂しくないんすか!?

あーんなに可愛い奥さんを裏切っといて、急にパパになったと思ったら、まぁた離婚して!

俺は悲しいですよ!」


今まで言えなかった心の内を、酔ってる今なら素直に言える気がした。


課長が俺に何を言いたいのかわからないけれど、俺の言葉がいいきっかけになってくれればとも思う。


課長はウンウンと頷いて、俺が言った言葉に対して、妙に納得している。


「ほんとになぁ
俺はバカだったよ……

お前に何度も忠告されてたのにな?

さとみにどれだけ甘えてたのか、今回はほんとに思い知ったよ」


妙に冷静にそう語る課長に、俺は少しばかりの憤りを感じて、呂律の回らない口を一生懸命開く。


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