もうひとつの恋



いつもの居酒屋でビールを頼むと、俺はボーッと考え事をしながら美咲さんを待っていた。


もうすっかりこのスタイルにも慣れてきて、美咲さんと会う時には待たされるのが当たり前になってきている。


『男は、女性を待つ間に思いを募らせるものよ?』


昔、美咲さんに言われた言葉もあながち間違っていないかもしれないと思う。


そんな気持ちは今のところ美咲さんには持ち合わせてはいないけれど、確かに待っている間にいろいろ考え事が出来るのは今の俺にとって有難かった。


頼んだビールが運ばれてくると、俺は枝豆をつまみに先に飲み始める。


ちょうど同じタイミングで美咲さんがひょっこり現れた。


「お待たせぇ、桜井

なんだ、先にやってんの?」


少し不満そうな顔で笑いながらドサッと向かいの椅子に腰掛けると、俺のビールを横目で見ながら、すばやく自分もビールを頼む。


遅刻しても悪びれない態度は相変わらずだ。


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