もうひとつの恋
「真剣に話してんのに、何笑ってんのよ!」


――やばっ!


機嫌を損ねてしまったら、この先の話が出来なくなるかもしれないと、俺は慌てて取り繕った。


「いや、笑ってませんて!

美咲さんの気持ちが嬉しかっただけですから」


せっかくそう言ったのに、美咲さんは顔を真っ赤にしてそれを否定した。


「あのねぇ!私は別に桜井のために言ったわけじゃなくて、さとみのことが心配なだけなんだからね!?」


この人……ひょっとして意外と照れ屋なのか?


8歳も年上だし、こんなに綺麗なんだから、誉められなれてると思ってたけど……


この性格ゆえに、あんまり誉められたことがないのかもしれない。


そう思うと、美咲さんがどんなに俺に悪態をついても、全然気にならなくなった。


それどころか照れ隠しで口が悪いのかもしれないと思うと、可愛いとさえ感じてしまう。


いつの間にかずっと美咲さんの下にいたはずの立場が、上から目線になっていることに気づいた。


美咲さんはそれには気付かずに相変わらず俺を子供扱いしているけれど……


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