もうひとつの恋
そしていよいよ当日――


「おはようございます!
あれ部長?……なんか元気ないですけど大丈夫ですか?」


マンションまで迎えに行くと、すでに疲れた様子の部長が見えて、俺はそう声をかけた。


たぶん、この男二人のシチュエーションが恥ずかしいんだろうな?


そう思ったものの、あえてそこには触れないで、助手席を勧める。


部長は車に乗り込むと、ようやく恥ずかしさを乗り越えたのか、俺に話しかけてきた。


「で?花見ってどこ行くんだよ」


俺は、さすがに引くだろうなぁ……と思いながら、でもそうさせない勢いで元気よく場所を告げた。


「葛西臨海公園です!

ちょっと遠いですけど広いし、天気もいいから気持ちいいですよぉ、きっと!」


チラッと横を見ながらそう言うと、思った通り部長は慌てた様子で引き気味に言った。


「ちょっ!まじかよ?

俺はてっきり都内の花見スポットだと思ってたのに」


だろうなと思いつつ、敢えてその言葉には反応を示すことなく、前を向いて黙々と運転をする。


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