もうひとつの恋
それでも行こうと決めてくれたのは、俺が部長を元気付けたいって言ったからに違いない。


こういうとこがあるから、俺は完全に部長を嫌いにはなれないんだと思う。


元々憧れていた分、反動で憎しみが増すのも仕方がないんだけれど……


「すいません!
や、先に言ったら部長……嫌がるかと思って」


恐る恐るそう言って様子を窺うと、部長は真顔で俺に言った。


「お前と二人のが嫌だったんだってことが、今わかった」


そう言い終わると同時に、部長の顔にフッと笑みがこぼれる。


良かった……


行きたくないとかごねられるんじゃないかと心配していただけに、部長が笑ってくれてホッと胸を撫で下ろした。


しばらく走っていると、目的地が近づいてくるのがわかる。


窓から見える景色には、規則的に並んだ薄桃色のソメイヨシノが美しく咲き誇っていた。


綺麗だな……


部長も少なからずこの素晴らしい桜の景色を楽しんでいるように見える。

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