もうひとつの恋
アパートの階段を重い足取りで昇っていく。


2階にある部屋に向かう廊下を歩いていると、カレーの匂いが鼻をくすぐった。


ははっ……またカレーか……


結衣の唯一作れる料理がカレーだった。


うちに来るときは必ずカレーを作ってくれる。


それでも一生懸命作ってくれるカレーは、3年の間にわりと好物になっていた。


今日で結衣のカレーも食べ納めか……


そう思うと胸が苦しくなる。


ドキドキするような恋心じゃないかもしれない。


少なくとも3年間一緒に時を過ごしてきた歴史がある。


妹のような愛情かもしれないが、別れるとなると辛かった。


でもこれから先……彼女と結婚して家庭を作るというビジョンは浮かんでこない。


だったら、彼女のためにも別れるのは早い方がいい。


そう決心して、玄関のドアを開けた。


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