もうひとつの恋
少しだけ優越感に浸りながら、今度は健太を紹介しようと、さとみさんの後ろにちょこんと隠れている彼に目を合わせた。


その瞬間、彼は満面の笑みを浮かべてさとみさんの後ろから俺を目掛けて走り寄ってくる。


「じゅんちゃーん！」


そう叫びながら俺に抱きついてくる健太を受け止めると、すかさずクルッと向きを変えて部長と向い合わせにした。


健太にしては珍しくモジモジすると、俺の側から離れようとしない。


仕方なくそっと背中を押して、小さな声で「ご挨拶は？」と促した。


健太は伏し目がちに、「こんにちは……」と言うと、部長から差し出された手におずおずと応えて握手をする。


挨拶が終わるとまた俺の方に体を向けて抱きついてきた。


俺は健太を抱き上げると、さとみさんが部長に話しかけるのを横目で見ながら、少し離れたところにいる美咲さんの元へと歩き出す。


後ろで久しぶりの会話を楽しむ二人を感じながら、美咲さんの元に辿り着くと、彼女は何も言わずに俺の背中をポンポンと叩いた。


それだけで燻っていた思いが吐き出されたような気がする。


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表紙・目次

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