もうひとつの恋
「いや……そうは言ってなかったけど……

子供がいるんだし、さとみだって今幸せだって言ってたし……」


俺の様子がおかしいことに気がついたのか、部長の声がどんどん小さくなっていく。


やっぱり……


さとみさんにも同じこと聞いたみたいだ。


結婚してたのかって、幸せそうで良かったって……


そう言われてしまったら、さとみさんだって話すに話せなかったに違いない。


俺は部長の無神経さに苛立ちを覚えながら、彼女が今……一人だということをわざと告げた。


「さとみさん……

旦那さんいないですよ?」


吐き捨てるようにそう一言だけ伝えると、部長は焦ったように俺の顔を見る。


「えっ?」


そう間抜けな声を出しながら、部長はその意味を確かめるように俺の顔を穴が開くほど見つめた。


「さとみさんが何も言わないなら、俺の口から詳しいことは言えないですけど、健太を一人で育ててるのは確かです」


俺は敢えて誰の子供なのかを口にすることなく、彼女が一人で子供を育てていることを伝える。


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