もうひとつの恋
「美咲さん?

どうかしたんですか?」


俺はいつもと違う様子の美咲さんが心配になってそう聞いてみる。


「あっ……あぁ、桜井か……

ごめん、ちょっとボーッとしてた……」


いやいや……今、俺だって気づいたのか?


重症だろ?


「ボーッとしてたって……
美咲さんらしくもない!
どうしたんすか?」


俺は余計に心配になってさらに問い詰めた。


美咲さんは電話の向こうで小さくため息をついてそれを否定する。


「いや……本当になんでもないから

ところで、健の方は?

どうだった?」


うまくはぐらかされた気もしたけれど、そのことを聞いてもらいたかったから美咲さんに電話したんだと思い出した。


「それが……」


俺は帰りの車での出来事をかいつまんで美咲さんに伝える。


話している間、珍しく美咲さんは口を挟むことなく、黙ってじっと聞いてくれていた。


そして最後まで聞き終わってもなお、美咲さんは一言も発することなく黙りこくっている。


しばらく無言が続いて、俺は我慢できなくなって何か喋ろうとした時、ようやく美咲さんが口を開いた。


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