もうひとつの恋
「桜井?」


俺が笑ったことに反応して、美咲さんが不思議そうな声で問いかけてくる。


俺はやっぱり美咲さんに元気をもらえたと思いながら、素直に答えた。


「美咲さんが先に怒ってくれるから、いっつも俺、怒りそびれちゃいますよ

でも、美咲さんのおかげで元気をもらえました

ありがとうございます……」


なるべく優しく、もいつものテンションは崩さないように気を付けながら、俺はそう礼を言った。


美咲さんは一瞬戸惑ったように息を呑むと、恥ずかしそうな声でいつものように憎まれ口を叩く。


「そっ、そうでしょ?

ありがたいと思いなさいよ!?」


俺はそれが可笑しくて、クスクス笑ってしまいながら、美咲さんの憎まれ口に付き合う。


知らない間に絡まってた糸がほどけていくように、俺の心は穏やかになっていく。


やっぱり美咲さんに電話して正解だったな……


そう思いながら、電話で良かったと少しだけホッとしてする。


もし今ここに美咲さんが側にいたら、抱き締めてしまっていたかもしれない。


この感情がなんなのかわからないまま、電話の向こうで喚く美咲さんの声を、俺は静かに微笑みながら聞いていた。



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