もうひとつの恋
健太はビクッと体を動かすと、美咲さんの体からそっと離れる。


そして振り向いて俺を見ると、涙の残るその顔を歪ませた。


「やだよ!ぼくじゅんちゃんがパパにはならないなら、パパなんていらない!

あのおじさん、なんできゅうにきたの?

まえみたいに、ぼくとママとみいちゃんとじゅんちゃんだけでいいよ!」

俺は息を呑んだ。


健太にとって部長は、突然現れた邪魔者ってとこなんだろう。


このままじゃ復縁が難しくなるかもしれない。


「健太、あのおじさんは俺の会社の上司なんだ

それにママやみいちゃんとは大学の時から仲良しだったんだ

だから今、あのおじさんとまだ仲良くなってないのは健太だけなんだよ?

今度は健太があのおじさんと仲良くなれば、みいんな仲良しになれる」


うまくこじつけたような説明になってしまったけれど、ちゃんとわかってくれただろうか?


健太は膨れっ面をして、じっと床を見つめながら、小さく「わかった…」とだけ答えた。


ほんとはわかりたくないのかもしれない。


だけど健太は俺の言うことを理解しようとしてくれてる。


後は頼みましたよ?部長……


健太と美咲さんと俺は、もう部長のことに触れることなく、いつも通りを演じてさとみさんの帰りを待った。


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