もうひとつの恋
「結衣……」


すべて平らげて満足そうな顔をしている結衣に、俺はそう声をかけた。


彼女は、少し首を傾げながら無邪気に俺の方に顔を向ける。


「話が、あるんだ……」


さっきまでにこにこしていた結衣の顔が、瞬時に強張った。


深刻そうな俺の口ぶりに、嫌な予感がしたのかもしれない。


俺は、どう切り出したらいいのかわからずに、結局ストレートに言葉を口にした。


「別れよう……」


その瞬間、結衣の顔がみるみる歪んでいった。


「な…んで……?

やだよ!純ちゃん!

私にどこか悪いとこあるなら直すから!

だからお願い……別れるなんて言わないで……」


結衣は泣きながら俺に抱きついて懇願するように叫ぶ。


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