もうひとつの恋
店内に入ると、受付にいた店員らしい女性に声をかけた。


「予約した桜井です」


「お待ちしておりました
7時半でご予約の桜井様ですね?

お連れ様は後からお越しですか?」


「はい、ちょっと早く来てしまったので、待たせてもらってもいいですか?」


「お席はご用意させて頂いてますので大丈夫ですよ?

どうぞこちらへ」


店員に案内されて通されたのは、夜景の見えるカップル席のような個室だった。


オレンジ色で覆われたソファーに、堀ごたつ風のテーブルが真ん中に配置されている。


女性なら可愛いと喜ぶのかもしれないが、俺は落ち着かなさを感じていた。


とりあえず腰を下ろして、窓の外に広がる銀座の夜景を眺める。


有楽町マリオンの外観がキラキラと反射して闇の中に一段と存在感を示していた。


それから店内をグルッと見渡すと、真ん中に樹木のオブジェがそびえ立っていて、空中庭園のように青白く光を放っている。


その幻想的な風景に目を奪われていると、上から女性の声が降ってきた。


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