もうひとつの恋
「お連れ様がお見えです」


店員がそう言って、後ろにいた女性を席に案内した。


おずおずと現れたその女性は、俺と目が合うとペコリと軽く会釈をする。


「こんばんは、はじめまして

小嶋穂香です」


失礼しますと言いながら向かい側の席にゆっくり座った彼女は、少し細身で身長は160㎝くらいといったところか。


ちょうどさとみさんと美咲さんの中間くらいに見える。


ロングの黒髪がよく似合う古風な美人という感じだった。


美咲さんとは真逆のタイプだな……


「はじめまして……

桜井純です」


俺はためらいがちにそう挨拶をしながら、彼女の後ろを確認した。


――あれ?彼女一人か?


不思議に思いながら首を傾げると、彼女はクスッと笑って俺を見る。


「あ、すみません……

あの……母は来ませんから」


「え?あ……そうなんですか……」


拍子抜けして脱力しながら、間抜けな返事をしてしまう。


まぁ、来ない方がかったからいいんだけど……


俺は少しホッとしながら、小さく息を吐いた。


そんな俺の態度を見て、彼女は申し訳なさそうに頭を下げる。


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