もうひとつの恋
「実はあれ嘘だったんです……ごめんなさい

ああでも言わないと、桜井さん……会ってくれなそうだったから……」


は?どういう意味だ……?


とりあえず会うだけ会って、この話はなかったことにしようと思っていただけに、なんだか嫌な予感がした。


「なんで嘘なんかついたんですか?」


騙されたことに少しだけイラッとしながらそう聞いてみると、彼女はあっけらかんとして答えた。


「電話の感じが良かったから、私が会ってみたくなっちゃったんです

でも桜井さんの口振りだと、電話で断っちゃえみたいな感じがしたから……

つい嘘ついちゃいました
ごめんなさい!」


そう言って深々と頭を下げる彼女が、なんだか憎めなくなる。


「まあ……いいですよ?
もう来ちゃったもんは仕方ないし……

とりあえず頭上げてください」


俺がそう言うと、彼女は嬉しそうに顔を上げて、にっこり笑った。


さっきは古風な美人で落ち着いた印象だと思ったけれど、時々見せる無邪気な笑顔が、幼さを感じさせる。


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