もうひとつの恋
こういうことははっきり言わないと、勘違いされても困る。


彼女は目をまん丸にして驚いたような顔で俺を見た。


「ずいぶんハッキリ言うんですね?

もう少し動揺するかと思ったのに」


はぁ?こいつ……俺をからかってんのか?


俺はバカにされたような気がして、少しムッとしながら、彼女に言い返した。


「冗談ならやめてもらえないですか?

俺、そんな気分じゃないんで」


普段なら軽くあしらうだろうこの状況も、今の俺にはそんな余裕はない。


彼女は諦めたように笑うと寂しそうに言った。


「あれ?怒っちゃいました?

だってあれだけハッキリ断られたら、ふざけるしかないじゃないですか……

それにどうやら桜井さん気になる人いるみたいだし、私……ほんと立場ないですよね……」


さっきまで冗談ぽく軽いノリで話してたと思ったら、今度は悲しそうな顔で俺を見る。


俺はどれが本当の彼女なのかわからなくて途方に暮れながら、彼女からそっと視線を外した。


それがショックだったのかはわからないが、彼女は急に泣き出してしまう。


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