もうひとつの恋
「報われない思いのまま友達でいることがどんなに辛いか俺が一番良く知ってる……

経験者だからね?

だから無理しない方がいい

このまま二度と会わなければ人はどんどん忘れていくんだから」


そう言うと、彼女は悲しそうに瞳を揺らす。


「でも桜井さんは克服したんですよね?

だったら私にもできるはずです!

なんでそんなこと言うんですか!?」


「知ってるからだよ!

それがどんなに辛いことなのか……

俺はそんな思いを四年も経験したんだ

だから……まだ今ならそれほど辛い思いしなくてすむんじゃないかって思うから……」


その頃の自分を思い出して、目頭が熱くなる。


もう大丈夫だと思ったばかりなのに、彼女を見てると自分と重ねて切なくなった。


彼女は挑むような目で俺を見ると、ゆっくりと口を開く。


「桜井さんは……

今、振られたその女性と友達でいることが辛いんですか?」


その言葉を聞いて思い出した。


思いが叶わないことは辛かったけれど、友達でいようと言ったのは他ならぬ自分自身だったことを……


今、さとみさんと友達でいることが辛いなんて思ったことはない。


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