もうひとつの恋
美咲さんかもしれない。


そう思って建物の間から顔を覗かせた。


やっぱり、美咲さんだ!


今度ははっきりと彼女のシルエットを確認することが出来て、俺は少し慌てながら美咲さんの元へと歩き出す。


声が届く距離に近付くと、美咲さんに聞こえるように大きな声で叫ぼうとした。


「みさっ……」


そこまで言って、俺はまた建物の隙間に体を滑らせる。


美咲さんの後ろからもう一人誰かが歩いてくるのが見えたからだ。


間一髪で、美咲さんが立ち止まり振り返ったように見えたけれど、幸い俺に気付くことなく、その誰かと一緒にマンションの中に消えていった。


「……誰だよ、あいつ」


美咲さんと一緒に楽しそうに笑いながらマンションに入っていったのは、ちょうど部長と同じか、もう少し年上の仕立てのいいスーツを着こなした紳士風の男性だった。


俺と連絡取らない間に、他の男と仲良くやってたってわけか……


なぜだかわからないけど、無性に腹が立つ。


別に彼氏でもなんでもないんだから、誰を家に入れようが俺には関係ない……


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