もうひとつの恋
俺がようやく美咲さんの顔を見下ろす距離に近づいた時、やっと彼女が口を開いた。


「桜井……どうしたの?
なんでうちに……」


「なんでって……美咲さんが電話にもメールにも返事くれないからでしょうが

だから……会いに来たんですよ?」


「べ、別に私なんかにわざわざ会いに来なくたって、そのうちさとみんちで会えるじゃない……」


「会いたかったから来たんです

美咲さんに……」


そう言うと、美咲さんの瞳がそっと揺れたような気がした。


だけどそれは一瞬だけで、次の瞬間にはいつもの気の強い瞳に戻って、俺を威嚇する。


「私なんかに会ってる暇があるんなら、もっと若くて清楚で控えめな女の子のとこに行けばいいじゃない!

会ったんでしょ?例の彼女と……」


「会いましたよ?」


わざとそう言うと、彼女は動揺したように顔を歪める。


もしかしたら……


さとみさんや小嶋さんの言う通り、美咲さんは妬いてるのかもしれないと、その時俺は思った。


やはり美咲さんは、俺が小嶋さんと会うことに嫉妬していたんだ。


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