もうひとつの恋
「じゃ、じゃあますますここに来る必要なんかないじゃない……

良かったね?彼女が出来ておめでとう」


そんな言葉とは裏腹に、彼女は俺の顔を見ようとしない。


「別に会ったってだけで、彼女なわけじゃないですけど」


事実を伝えても、美咲さんの頑なな態度は相変わらずだ。


「で、でもこれからそうなるかもしれないんでしょ?

お母さんのおすすめなんだし」


そこまで美咲さんの言い分を聞いていて、俺はそこかと思った。


美咲さんにとって、彼女に会うということよりも、母が推してたことの方が重要だったようだ。


もしかしたら、自分と比べたのかもしれない。


自分とは真逆の女性を、俺の母が望んでるんだと思ったとしたら……


だけど実際は小嶋さんだって、見かけに反して全く清楚で控えめとは無縁だったんだから、母もあてにはならない。


「私なんかと会ってたら、その人が誤解しちゃうかもしれないよ?

そ、それに私はさとみの親友で、桜井とはさとみを通して知り合ったわけで……

だから……」


そう一生懸命言い訳をする美咲さんが、俺は可愛くて仕方なかった。


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