もうひとつの恋
今まで彼女をそんな風に思ったことは一度もなかった。


美咲さんが可愛いと思える日が来るなんて、なんだか可笑しい。


ふっと笑ってしまうと、 美咲さんはそれを見逃さなかった。


「何が可笑しいのよ!

私は真剣に言ってるん……だか……ら……」


俺が美咲さんを真剣な眼差しで見つめると、彼女の勢いは急激に落ちる。


「美咲さん……

何で急に連絡くれなくなったんですか?」


俺は彼女の本当の気持ちが知りたくて、そう聞いてみた。


「えっ!?あの……だから……かっ、彼女に悪いと思ったから!」


そんな風にうろたえる姿がまた可愛い。


俺はもっといじめたくなって、彼女の目を捕らえたまま、ゆっくりと距離を縮める。


「彼女なんていないですよ

あのあと仕方ないから一度会ったけど、きちんと断りました

気になる人がいるからって」


彼女はそんな俺から目を離せないまま、それでも縮まった分の距離を一歩後退る。


「はっ?気になる人!?

あ……あぁ、さとみのことか?

でももう振られてんのに、断るなんて勿体無かったんじゃないの?」


それが本心じゃないことくらい、もう俺にはわかっていたけど、わざと聞いてみた。


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