もうひとつの恋
このままじゃいつまで経っても拉致があかない。


売り言葉に買い言葉でいつまでもこの攻防が続きそうだと思った。


とりあえず彼女を黙らせるために、自分の両手を美咲さんの首の後ろで組むような形で両腕を彼女の肩にふわっと乗せる。


「――ッ!」


突然のことにビクッとしながら、彼女は身動きの取れない状態で、体を強張らせたまま驚いたように俺を見上げた。


ん?という表情で真上から彼女を覗きこみながら優しく微笑むと、彼女は真っ赤な顔をさらに赤くしながら、恥ずかしそうに俯く。


「美咲さん……

俺のこと好きですか?」


どうしても美咲さんの口から俺を好きだと言わせたくてそう聞いてみる。


俯いていた顔を瞬間的にまた上げて、俺の顔を見ながら口をパクパクさせていた。


「えっ!?

あの……えっと……」


美咲さんはどう答えればいいのか考えあぐねているかのように、目線をさ迷わせて動揺している。


俺はとどめを刺すようにもう一度聞いた。


「俺のこと……

好きですよね……?」


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