もうひとつの恋
「ねえねえ、桜井ぃ
焼きそば作るけど食べる?」
「食べる、食べる!
美咲さんの焼きそば旨いから楽しみ」
そう言うと、美咲さんは照れたように笑ってキッチンに消えていった。
日曜日の昼下がり。
俺は泥酔して連れてこられた時以来、二回目の美咲さんの部屋に足を踏み入れていた。
出張で東京に来ていたお兄さんは名古屋に帰り、付き合い初めてからすでに三ヶ月が経とうとしている。
俺達は一応、付き合ってはいるものの、『桜井』『美咲さん』と相変わらず呼びあっていた。
今さら、名前でなんて恥ずかしくて呼べないとお互いに思っていたのだろう。
そんなふたりだけど、一つだけ変わったことがある。
美咲さんがたまに、すごく甘えた声で俺に話しかけてくることだ。
今まで憎まれ口しか叩かれたことのなかった俺は、美咲さんの新たな一面が見れたような気がして嬉しかった。
だけど……
キャラが変わりすぎて、可愛いと思いながらも、笑いだしそうになるのを必死に堪える俺がいた。
そんな関係だから、あの日キスを交わして以来、俺は美咲さんに指一本触れることが出来ないでいる。