もうひとつの恋
確かに……


普通ならそんなこと口が避けても言えないはずなのに、小嶋さんには言えてしまうから不思議だ。


「かりにも私、桜井さんのこと好きだったんだってこと絶対忘れてますよね?」


いや……覚えてはいるんだけど……


彼女はなにかというと、いつもこのフレーズを挟んでくる。


最初は申し訳なく思っていたけれど、今ではただのご挨拶みたいな、そんな風にしか思えなくなっていた。


だって、彼女は今、別の人に恋してるから……


俺が相談しやすいのは、向こうからもいろいろ相談されているせいかもしれない。


そんなわけで、最近では美咲さんとの電話よりも、小嶋さんとの電話の方が多いくらいだった。


「で?どう思う?」


俺がそうもう一度尋ねると、彼女は電話の向こうで小さくため息をつきながら言った。


「彼女、もしかしたらそういうこと苦手なのかな?

でも年上だからリードしなくちゃいけないとか、余計なこと考えちゃってるのかも」


なるほど……ってそんなもんなのか?


「俺は別にリードしてほしいなんて思ってないけど……」



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