もうひとつの恋
「いや……さすがに海外は休みがとれないから、近場の温泉かなんかどうかと思うんだけど……」


「あ……そうだよね?

あはは……ごめん

旅行っていうと海外が多かったから……」


「……」


俺は前に聞いたイタリア人の元カレを思い出していた。


きっと年齢も収入も見た目も、美咲さんに釣り合っていたに違いない。


旅行といえば海外って……


どんなセレブなんだよ!


まあ外人だから海外に行くのは当たり前なんだろうけど、きっといろんな国に二人で行ったのかもしれないと思ったら、何だか無性に悔しくなった。


「どしたの?桜井

温泉とか行ったことないから、楽しみだよ?

いつにする?」


俺が黙っているのを見て、気を遣った美咲さんがそう声をかけてきたけど、素直にうんと言えない自分がいた。


「いや……別に無理して行かなくてもいいですよ

海外じゃなくてすみません」


ついそう八つ当たりをしてしまうと、美咲さんは驚いた顔をして俺に近づいてくる。


それからそっと俺の隣に座ると、ふてくされてる俺の顔を心配そうに覗きこんだ。


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