もうひとつの恋
隣の美咲さんをチラッと見ると、照れているのかさっきから全く言葉を発しない。


シャイな美咲さんのことだから、部長やさとみさんを前にしてどうしたらいいのかわからないといったところだろう。


何かあったのかと聞かれても、特に何かあったわけじゃない。


結局、美咲さんに子供は出来ていなかった。


だけどだからこそ、そういう理由じゃなくて、美咲さんだから結婚したいと思えた。


「美咲さん、結婚しよう?

俺のそばに一生いてほしい」


目の前に広がる一面の夜景を見下ろしながら、車の中でそうプロポーズした時、美咲さんは泣きそうな顔で言ったっけ。


「私のが先に死んじゃってもいい?」


思わず吹き出しそうになりながら、俺は彼女を安心させるように言った。


「大丈夫ですよ、日本人の女性は男性より平均寿命長いし」


ククッと笑いながらそう言ってあげると、美咲さんは複雑そうな顔をしてまた不安げに俺を見る。


「私がどんどんおばちゃんになっていっても、若い女の子に心が動いたりしない?」


今からどんな心配なんだと思いながらも、それだけ歳のことを気にしているんだということに気づく。


< 368 / 432 >

この作品をシェア

pagetop