もうひとつの恋



「ねえ、美咲さん?

そろそろその呼び方……
やめません?」


「はぁ? 何言ってんの?
あんただって未だに“さん”付けだし、敬語じゃない」


そりゃそうだけど……


でも……


美咲さんの呼び方には問題があると思うんだけど……


「しゃくらいぃ~」


もうすぐ二歳になる娘が、俺をそう呼んだ。


「ほら、萌音(モネ)が真似するじゃないですかぁ」


「……うっ!」


美咲さんがバツの悪そうな顔をして、俺を見る。


「しゃくらいぃ~

あしょぼ?」


舌足らずなしゃべり方で俺を呼ぶ萌音を本当に愛しいと思う。


だけどその呼び方はちょっと……


「萌音?パパだろ?

パァパって言ってごらん?」


キョトンとした顔で首を傾げる娘が、俺の顔を見ながらにっこり笑う。


それからもう一度俺を呼んだ。


「しゃくらいぃ~」


そう言って抱きついてくる萌音を優しく抱き止めながら、俺は大きく溜め息をついた。


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