もうひとつの恋
それから美咲さんの顔を恨みがましい目で見つめる。


「ごっ、ごめん!

でも今さら他に呼びようがないもん」


少しだけ申し訳なさそうに、美咲さんはそう言ったけど……


「美咲さんだって、今は桜井なんだよ?

おかしいでしょ?」


「そっ、そうだけど……

今さら、名前で呼べって言うの?」


「もう何年夫婦やってると思ってんの?

今さら恥ずかしがんなくてもいいでしょ?

はい!練習、練習!

言ってみて?」


俺がそう畳み掛けて言うと、美咲さんは決心したように頷いて、俺を呼ぼうとした。


「じっ……じゅ……じゅ……


いやっ、やっぱ無理無理無理!!」


俺の名前を呼ぼうとするだけで、もうすでに真っ赤っかになりながら、美咲さんは結局、途中までしか名前を呼んではくれなかった。


「はぁ……仕方ないなぁ……

俺もまだ“さん”付けなわけだし、フェアじゃないから……

まず俺から変えるようにします

だから、美咲さんも頑張ってくださいよ?

このまま萌音がずっと名字で呼ぶのは困るんで……」


美咲さんもそれは困ると思ったのか、真剣な眼差しで頷いた。


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