もうひとつの恋
それから萌音は、美咲さんから俺の方に向き直ると、不思議そうな顔をしながら呟いた。


「パパ?」


かっ、可愛い!


そのつぶらな瞳で、パパだなんて……


「そうだよ?

パパだ! これからはパパって呼ぶんだよ?」


俺がそう言うと、わかってるのかわかってないのか「は~い」と言いながら、もう大好きなクマのぬいぐるみで遊び始めている。


それでも俺はパパと呼ばれた満足感で一杯で、顔が緩むのを止められなかった。


「顔、緩んでるよ?」


呆れたように腰に手を当てながら、美咲さんにそう言われ、ハッとなる。

美咲さんの様子を窺うと、ニヤニヤしながら俺を見下ろしてる。


「ほんと、純は萌音にメロメロなんだから」


あれ……?


今、純て呼んだ?


あまりにも自然すぎて、聞き逃すとこだった。


驚いて彼女の顔を見ると、少し照れながら俺の言わんとすることに答える。


「やっぱり、娘が父親を桜井よばわりじゃまずいしね?

まだ慣れないけど、頑張って純て呼ぶようにするから」


それからニッと笑って、俺の肩をポンポンと叩いた。


よし! 俺も“美咲”って呼べるように頑張ろう……


< 377 / 432 >

この作品をシェア

pagetop