もうひとつの恋
気がつくと、俺の隣を歩いていた美咲さんの姿が見えない。
――あれ?
どこ行ったんだ?
俺はそう思いながら、後ろを振り返る。
いたいた!
よく見ると右手と右足が一緒に出ていた。
ぶふっ!!
何やってんだ、あの人は。
「美咲さん!早くおいで?」
そう声をかけると、険しい表情をしたまま美咲さんが俺を見た。
その瞬間、ハッとした顔をして、俺の方に走りよってくる。
「ごっ、ごめん!
そっかそっか、桜井と一緒だったんだっけ
あはは……あは……はぁ……」
どうやら俺と一緒にいたことも忘れるくらい、思い詰めているらしい。
「あのさ、美咲さん
そんなに緊張しなくても大丈夫だって」
「べっ、別に緊張なんかしてないけど?」
無理してそう言った美咲さんは、どうみても挙動不審だ。
今日は美咲さんを実家に連れていくところだった。
もちろん目的は結婚の報告に決まってる。
朝からずっとこの調子の美咲さんは、よっぽど俺の母親が怖いらしい。
電話ではきちんと話もしているし、お袋も喜んでくれてたってちゃんと言ったんだけど……