もうひとつの恋
大袈裟に溜め息をつきながら、呆れたようにそう言うと、美咲さんは意外にもシュンとして俯いた。


――やばっ!


ちょっといじめすぎたかな?


俯いてる美咲さんの顔を覗きこむようにして様子を窺うと、どうしていいかわからないような顔をしている。


「美咲さん?」


そう声をかけると、俺が覗きこんでるのにようやく気がついて、顔を真っ赤にしながら俺を押し退けた。


「ちょっ!桜井、近い!」


「近いって……

もうすぐ俺たち結婚するんでしょ?

このくらいで恥ずかしがらないでくださいよ」


もう付き合って半年は経つのに、美咲さんは相変わらず以前と態度が変わらない。


まあそこが可愛いっちゃ可愛いんだけど、そんな雰囲気にするために、いつもどれだけ俺が苦労してるのかなんて、美咲さんは知らないんだろうなと思った。


そんな状態のまま、実家に辿り着いてしまい、俺は苦笑しながら美咲さんを見る。


たまにほんとにこの人は歳上なんだろうかと思うくらい、恋愛に関してはまったくといっていいほど余裕がないのだ。


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