もうひとつの恋
「ただいまぁ!」


田舎の一軒家によく見られる引き戸の玄関を勢いよく開けながら、俺はそう言って中に入る。


奥からパタパタと足音がして、嬉しそうな母の顔が覗いた。


「お帰りなさい!

待ってたわよー!」


やけにハイテンションな母を見ていると、今日をどれだけ楽しみにしていたのかがわかる。


けれどその顔が急に雲って、母は怪訝そうな顔で俺を見た。


「あら?彼女は?

一緒じゃないの?」


――えっ?


いるはずだけど。


俺が後ろを振り向くと、いるはずの美咲さんが見当たらない。


見ると、俺から少し離れた玄関の端の方に、美咲さんはひっそりと立っていた。


「美咲さん!何やってんの?

こっちおいで?」


苦笑いしながら俺がそう言うと、観念したようにおずおずとこちらにやってくる。


「あらあらまあまあ、いらっしゃい!

よく来てくださいましたね?」


母は待ちきれなかったようで、玄関を出て俺の横から美咲さんを覗きこみながらそう言った。


「――ッ!」


美咲さんは一瞬驚いたように後ずさったけれど、もう隠れようがないと思ったのかゆっくりとこちらにやってきた。


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