もうひとつの恋
夕飯も済んで片付けも終わり、L字型のソファーのあちらとこちらに座っていた距離を俺は縮めた。


「な、何?ちょっ!近い!」


美咲の体に密着するほど近づくと、俺は彼女の肩をそっと抱いた。


ピクッと彼女の体が反応する。


萌音がいるとなかなかこんなこと出来ないから。


何だか久しぶりに新鮮な気持ちになった。


「もう、何してんのょ……」


そう彼女は言ったけど、語尾はだんだん小さくなる。


そんな彼女が愛しくて、俺はそっと触れるだけのキスをした。


「……ん」


顔を離して美咲の目をじっと見る。


それからフッと微笑んで、髪を優しく撫でながら言った。


「なんか、俺に言いたいことあるんでしょ?

大丈夫だから、美咲の気持ちちゃんと言ってみて?」


体が……唇が……触れて体温を感じたことで、安心してほしいと思った。


何でも俺が受け止めるから大丈夫って、伝えてあげたかった。


いまだにすぐ、俺に遠慮して一人で抱え込むのはこの人の悪い癖だ。


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