もうひとつの恋
「なぁ……」
「んー?」
「俺さぁ、純ちゃんちの子に生まれたかった……」
「はぁ?なに言ってんだ、お前は」
夏休みに入ると俺はいつも、ここ桜井家に入り浸る。
純ちゃんと美咲は幼い頃から知っている、いわば第二の両親的な位置付けだ。
親戚よりも濃い関係だと自分では思ってるし、ある意味うちの親父より歴史は長い。
7歳と5歳の娘たちに囲まれて嬉しそうに目尻を下げる純ちゃんは、今年でもう40歳だ。
知り合った頃は、面白くて優しいお兄ちゃんて感じで、俺はその頃からよくなついていたと思う。
美咲もお袋の親友だから、物心ついたときには四人でいることが当たり前になってた。
まあ、その美咲と純ちゃんが結婚するとは夢にも思っていなかったけれど……
「ねぇねぇ、けんちゃん
今日は花純美ちゃん、来ないの?」
純ちゃんちの上の娘、萌音は、俺の妹の花純美と仲がいい。
7歳と9歳と歳が近いせいかもしれない。
「うん、ごめんな?
今日も俺だけ」
苦笑しながらも頭を撫でてやると、萌音は照れたように笑った。