もうひとつの恋
とりあえず彼女に肩を貸しながら、ソファーまで移動する。


なんとかソファーに座らせると、俺は自動販売機でペットボトルの水を買い、彼女に手渡した。


「良かったらこれ」


「あ……りがとう……ございます」


そうとぎれとぎれに言いながら、手渡したペットボトルの蓋を遠慮がちに開けて、水を少しだけ口にふくむ。


するとようやく落ち着いてきたのか、焦点の定まらなかった目もしっかりとしてきた。


俺は安心して「ふぅ……」と息を吐くと、ようやく彼女に声をかける。


「課長……大沢課長の奥様ですよね?」


そう言うと、目を大きく開いてビックリしたように俺の顔を見た。


「え……と、ごめんなさい

お会いしたことあったかしら?」


覚えていないことを申し訳ないと思ったのか、恐る恐るそう聞いてくる。


そりゃそうだろう。


一度しか会ったことがないだけじゃない。


あなたは課長しか目に入ってなかったんだから……


少し切なくなるのを笑顔で隠して、俺は彼女を安心させるように言った。

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