もうひとつの恋
課長はいったい何やってんだ!


こんなに変わり果てた自分の妻に気付かないくせに、他人の相談に乗っているのかと思うと腹が立ってくる。


何より弱々しい体で、必死に抱えてる何かと戦ってる彼女を見てるのが辛かった。


この人は誰にも頼らずに自分だけで問題を抱え込んでるんじゃないか……


そう思うといてもたってもいられなかった。


気がつくと俺は内ポケットに手を入れて彼女に名刺を差し出していた。


「あの……迷惑かもしれないですけど、よかったら……

いつでも相談というか……話聞くんで……

もし、辛くなったら電話ください」


こんなよく知りもしない夫の部下にそんなことを言われて驚いたんだろう。


一瞬びっくりしたようにまじまじと俺の顔を見つめる。


冗談で言ってるんじゃないと、俺の強張った真剣な表情でわかってくれたのか、彼女はふっと顔を緩めた。


「……ありがとう

じゃあ、もし何かあったらここに電話しますね?」


とびきり優しい笑顔でそう言われて、断られると思っていた俺は自分で言い出したくせに、驚きを隠せない。


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