もうひとつの恋
きっと俺の余裕のない様子に同情してくれたのかもしれないな……


彼女の優しい気持ちが嬉しくて、俺はもう一度同じことを繰り返す。


「はい!この携帯番号に電話いただけたら、いつでもこの桜井が相談に乗りますから!」


変な下心がないことをアピールしようと元気よくそう言った俺を見て、彼女はまた吹き出した。


笑いながらもう一度俺に深々と頭を下げてお礼を言うと、スッキリした顔で立ち上がった。


帰るつもりなら外まで見送ろうと思い、俺も立ち上がって彼女の隣に歩み寄る。


しかしどうしたのか彼女は急に一点を見つめたまま、固まったように動こうとしない。


俺は不思議に思ってそのまま動かない彼女の視線の先を追ってみた。


すると隣のビルにあるカフェから誰かが出てきたところだった。


あ……れ?


もしかして…課長……?


よく見ると課長らしき人物が女性に向かって笑顔で手を振り、見送っている。


――やばい!!


そう思った時にはもう、彼女は立ち上がりかけた体をもう一度ソファーに預け、何か考え込んでいる様子だった。


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