もうひとつの恋
課長の様子がおかしくなってから、さらに2ヶ月がたっていた。
課長はあれから少しはましになったものの、完全に元に戻ったというわけではなかった。
休みの次の日には酒臭いときもあったりして、俺は課長をフォローすることくらいしかできないでいた。
そんなとき……いつもは二人で行く相手先の会社に一人で行くことになり、俺は正直ホッとしながら会社を出た。
無事仕事を終えての帰り道、ふと見覚えのある顔を見た気がして振り返る。
やっぱりそうだ。
思わず彼女の背中を追いかけて、声をかけてしまう。
「あれ?
大沢課長の奥さんですよね?」
なるべく自然に……笑顔でそう言うと、彼女は驚いたように俺を見て、ゆっくりと思い出すように俺の名前を呼んだ。
「桜井……くん?」
俺は自分の名前を覚えてもらっていたことが、こんなにも嬉しいなんて思わなくて、素直にその感情を彼女に伝える。