もうひとつの恋
「そっか、最近疲れてるのに眠れないって言って、夜はお酒飲んだりしてたからかなぁ?

シャツとかも私、最近アイロンさぼってたからかも……」


あきらかに課長を庇っているのがみえみえな返答に、俺は意地悪く核心に触れてみた。


「あぁ、そうなんですね?
じゃあ良かった

俺……実は、もしかしたらこないだのことが原因で、奥さん出て行ったりしちゃったのかなって心配してたんですよ」


一瞬、彼女がピクッと反応したのを見逃さなかった。


だけどその部分にはわざと触れないように、彼女は俺の言葉を軽く受け流す。


「心配してくれてありがとう

仕事中にごめんね?

何かあったら電話するから、その時はよろしくね?」


からかうような口調で彼女はにっこり微笑む。


その顔を見たら、もうそれ以上は何も言えなくて、彼女が笑顔で俺から遠ざかっていくのをしばらくずっと見送っていた。



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