もうひとつの恋
信じられなかった。


課長の話がじゃない。


奥さんが言ったことを課長が真に受けているということが、だ。


彼女はいつも自分より課長のことを考えてた。


だからもし彼女が自分から出ていったなら、そうさせる何かがあったとしか思えない。


でも今の課長にそれを伝えたところで、わかってはくれないだろう。


今、課長は自分の方が傷ついたんだと……


辛かったんだと……


俺に訴えている。


そんな課長を情けなく思いながら、これ以上話をしても平行線だと諦めた。


許した訳じゃない。


今までのように接することは難しいかもしれない……と思った。


俺は一人うなだれている課長に「わかりました」と小さく呟いて、会議室を後にする。


ドアが閉まる瞬間、課長の「すまない…」という声が聞こえた気がした。


俺はそれを聞きながら、早いうちに課長の奥さんに連絡をとろうと心に決めた。


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